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岐阜地方裁判所大垣支部 昭和45年(ワ)126号 判決

原告

神巻利三郎

〈外三名〉

右訴訟代理人

伊神喜弘

外三名

被告

大橋勝

右訴訟代理人

江口三五

外三名

被告

中野礼一

〈外四名〉

右訴訟代理人

梅田林平

被告

大垣魚介青果株式会社

〈外一名〉

右訴訟代理人

大塩量明

主文

一、被告大橋勝、同中野及び同大垣魚介青果株式会社は各自、

(一)、原告神巻利三郎に対して、金五四一万三、七一七円と内金五〇六万三、七一七円に対する昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する被告大橋は同年一二月二八日から、同中野と同大垣魚介青果は昭和四六年一月四日から、内金三二万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二)、原告神巻てるに対して、金四九一万九、八九八円と内金四五九万九、八九八円に対する昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する被告大橋は同年一二月二八日から、同中野と同大垣魚介青果は昭和四六年一月四日から、内金二九万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

二、被告大橋は、

(一)、原告松尾景雄に対して、金五五三万三、八一七円と内金五一七万三、八一七円に対する昭和四五年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する同年一二月二八日から、内金三三万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二)、原告松尾好子に対して、金五二六万三、八一七円と内金四九二万三、八一七円に対する同年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する同年一二月二八日から、内金三一万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

三、被告増田秋子は、

(一)、原告松尾景雄に対して、金一八四万四、六〇五円と内金一七二万四、六〇六円に対する昭和四五年六月一六日から内金八、三三三円に対する同年一二月二八日から、内金一一万一、六六六円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二)、原告松尾好子に対して、金一七五万四、六〇五円と内金一六四万一、二七二円に対する同年六月一六日から、内金八、三三三円に対する同年一二月二八日から、内金一〇万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

四、被告増田康洋、同堀尾繁子及び同山田愛子は各自、

(一)、原告松尾景雄に対して、金一二二万九、七三七円と内金一一四万九、七三八円に対する昭和四五年六月一六日から、内金五、五五五円に対する同年一二月二八日から、内金七万四、四四四円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二)、原告松尾好子に対して、金一一六万九、七三七円と内金一〇九万四、一八二円に対する同年六月一六日から、内金五、五五五円に対する同年一二月二八日から、内金七万円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

五、被告大垣海産市場株式会社は、

(一)、原告松尾景雄に対して、金五五三万三、八一六円と内金五一七万三、八二〇円に対する昭和四五年六月一六日から、内金二万四、九九八円に対する同年一二月二八日から、内金三三万四、九九八円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二)、原告松尾好子に対して、金五二六万三、八一六円と内金四九二万三、八一八円に対する同年六月一六日から、内金二万四、九九八円に対する同年一二月二八日から、内金三一万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

六、原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

七、訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

八、この判決の一ないし五項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

(一)  被告大橋、同大垣魚介青果及び同中野は各自、

1 原告利三郎に対して、金六三〇万一、一一五円と内金五八七万六、一一五円に対する昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する被告大橋は同年一二月二八日から、同大垣魚介青果は同月二九日から、同中野は昭和四六年一月四日から、内金四〇万円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

2 原告てるに対して、金五七七万三、三四六円と内金五四〇万八、三四六円に対する昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する被告大橋は同年一二月二八日から、同大垣魚介青果は同月二九日から、同中野は昭和四六年一月四日から、内金三四万円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

(二)  被告大橋と被告大垣海産市場は各自、

1 原告景雄に対して、金六一三万一、九九五円と内金五七二万六、九九五円に対する昭和四五年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する同年一二月二八日から、内金三八万円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

2 原告好子に対して、金五七九万七、八七八円と内金五四三万二、八七八円に対する同年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する同年一二月二八日から、内金三四万円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

(三)  被告秋子は、

1 原告景雄に対して、金二〇四万三、九九八円と内金一九〇万八、九九八円に対する昭和四五年六月一六日から、内金八、三三三円に対する同年一二月二八日から、内金一二万六、六六六円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

2 原告好子に対して、金一九三万二、六二九円と内金一八一万〇、九五九円に対する同年六月一六日から、内金八、三三三円に対する同年一二月二八日から、内金一一万三、三三三円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

(四)  被告康洋、同繁子及び同愛子は各自、

1 原告景雄に対して、金一三六万二、六六五円と内金一二七万二、六六五円に対する昭和四五年六月一六日から、内金五、五五五円に対する同年一二月二八日から、内金八万四、四四四円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

2 原告好子に対して、一二八万八、四一九円と内金一二〇万七、三〇六円に対する同年六月一六日から、内金五、五五五円に対する同年一二月二八日から、内金七万五、五五五円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を

各支払え。

(五)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び(一)ないし(四)項についての仮執行の宣言

二、被告ら

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二、原告らの請求原因

一、食中毒事件の発生とその原因

(一)  原告利三郎と訴外神巻美紀子は、昭和四五年六月一三日の昼食時に卵豆腐一丁を半分宛食べたところ、同日夕方から高熱・腹痛・下痢・脱水症状等を伴う食中毒に罹り、不破病院と博愛病院で治療を受けた。

しかし、訴外美紀子は、翌日午後九時頃急性胃腸炎に起因する心臓衰弱により死亡し、原告利三郎は、頭痛が続き歩行が困難となり、四週間は医師の往診により、その後三週間は通院して、それぞれ治療を受けねばならなかつた。

(二)  訴外松尾千代美は、昭和四五年六月一三日夕食時に卵豆腐を食べたところ、翌一四日早朝から(一)項の訴外美紀子らと同じ症状の食中毒に罹り、大垣市久瀬川町の菱田医師の治療を受けた後、翌々日の一五日午前八時半頃大垣市民病院に入院したが、同日午前九時急性食中毒による急性心不全により死亡した。

(三)  右食中毒(以下、本件食中毒という)の原因は、訴外美紀子らの食べた卵豆腐に付着増殖していたサルモネラ菌C1群(以下単にサルモネラ菌という)によるものである。

二、卵豆腐の消費者に至る経過

(一)  原告利三郎と訴外美紀子の食べた卵豆腐は、昭和四五年六月一三日昼頃、原告利三郎の妻で訴外美紀子の母の原告てるが鮮魚類等の小売業者の被告中野から買つたものであり、被告中野は同日朝これを食品卸売業者の被告大垣魚介青果から仕入れたものである。

(二)  訴外千代美の食べた卵豆腐は、同日午後六時頃、訴外千代美の下宿先の叔母の訴外本田敏子が八百屋を営んでいた被告増田康洋らの先代亡増田勇吉(以下、単に増田という)から買つたものであり、増田は同日朝これを食品卸売業者の被告大垣海産市場から仕入れたものである。

(三)  これらの卵豆腐(以下、本件卵豆腐という)は、被告大橋が製造し、同被告から同日朝被告大垣魚介青果と同大垣海産市場が仕入れたものである。

三、被告大橋の責任

被告大橋は、肩書地で魚介類販売業を営む傍ら仕出し業も営み、卵焼や卵豆腐を製造して被告大垣魚介青果と同大垣海産市場へ卸していたもので、本件食中毒によつて生じた六項の損害(以下、本件損害という)について次のような責任がある。

(一)  保証責任

被告大橋は、食品の製造業者として食品衛生法上、病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を害う虞れがある食品を販売の用に供するため製造したり、販売してはならない(同法四条三号)のだから、本件卵豆腐を製造し、これを消費者に食品として販売するため被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に卸すことにより、本件卵豆腐が病原微生物により汚染されていないことなど、食品としての品質を、従つてサルモネラ菌に汚染されていないことを、消費者に対して保証したとみるべきである。

ところが、本件卵豆腐は、被告大橋が製造した時からサルモネラ菌によつて汚染されていたのだから、これを食べたことによつて生じた本件損害について賠償義務がある。

(二)  不法行為責任

1 卵豆腐の製造についての責任

被告大橋は、訴外有限会社米増鶏卵等から昭和四五年六月一〇日前後に買入れた破損卵から集めた液卵(以下単に液卵という)を一旦冷蔵庫に保管した後、ポリエチレン製の容器に満した出し汁・調味料・色素・保存料等を添加して攪拌した上、約五リットルの容器に流し込み摂氏約八〇度に至るまで二〇分間蒸して固型した後放冷して切断し、ポリエチレンのパックで包装して同月一二日午後一一時頃製造し終つた。

被告大橋は、右製造にあたり、卵豆腐が細菌に汚染されないよう配慮すべきであつたのに、

(1) サルモネラ菌等に汚染され易い破損卵から集めた液卵を原料とし、

(2) 卵豆腐の製造過程における熱処理は、高過ぎると卵が凝固してしまい卵豆腐とならないため、余り加熱できず、サルモネラ菌等の細菌の殺菌に充分でなく、

(3) 卵豆腐の製造に使用した調理場は、水場が便所の手洗場を兼ねており、使用する器具の保管場所や出来上つた卵豆腐の放冷棚についてサルモネラ菌等の細菌を保菌しているネズミの侵入防止の施設が完備しておらず、

(4) デヒドロ酢酸を、食品衛生法違反と知りながら使用していたことなどから窺える被告大橋の食品衛生に対する安易な態度

などからすると、サルモネラ菌に汚染された本件卵豆腐を製造し、そのため本件損害を発生させたことについて被告大橋に右のような配慮に欠け過失があつたというべできある。

2 卵豆腐を販売した責任

しかも、卵豆腐は、かつおぶし、しよう油・塩などからなる出し汁と卵を攪拌した仕込み液を原料にしており、極めて栄養に富み細菌の増殖し易い食品であり、本件食中毒当時は気温も高かつたのだから、本件のような細菌による食中毒を防ぐためには、

(1) 製造後短時間内に食べること、

(2) 細菌の増殖を許さぬよう低温で保存すること、

(3) 食前に加熱殺菌すること、

が必要であるが、本件卵豆腐は、

(1) 製造してから消費者が食べるまで問屋を通じて販売する場合、少なくとも一二時間は要し、

(2) 問屋から小売業者に渡るまで、細菌の増殖を防止するような低温保存の措置をとることが期待できず、

(3) 卵豆腐は、その性質上、殺菌するに足りる程高温で消毒することが困難であり

一旦、流通過程におかれると、細菌の増殖を防止することが難かしい食品であるから、元来、卵豆腐の製造業者である被告大橋としては、消費者を食中毒に陥入れる危険性の大きい食品として、問屋を通じて小売業者に販売すべきでなかつたのに、敢えてこのような販売をしたことにおいても過失があり、いずれにしても民法七〇九条により、本件損害について賠償義務がある。

四、被告中野と増田の責任

被告中野は、鮮魚類の小売販売を業とし、増田は、八百屋を営んでいたが、本件損害について次のような責任がある。

(一)  保証、不完全履行などの責任

被告中野は原告てるに、増田は訴外本田敏子に、それぞれ本件卵豆腐を売つたが、本件卵豆腐は、いずれもサルモネラ菌に汚染されていた。

直接本件卵豆腐を買つたのは、原告てると訴外本田敏子であつたが、原告てると訴外本田敏子は、それぞれの家族全員の使者又は締約補助者として家族全員のために買つたのだから、原告てるの家族の夫の原告利三郎と子の訴外美紀子、訴外本田敏子の家族の訴外千代美は、いずれも、買主と同じ立場にあるとみるべきである。

そして、被告中野と増田は、三項(一)保証責任のとおり、食品の小売業者として、食品衛生法四条三号に従うべきであり、本件卵豆腐を販売することにより、本件卵豆腐がサルモネラ菌に汚染されていないことなど食品としての品質を保証したとみるべきで、買主に対して保証責任があり、また右のような食べるに適さない瑕疵のある食品を売つたことにより、買主に対し不完全履行(民法四一五条)又は瑕疵担保責任(同法五七〇条)があるので、本件損害を賠償する義務がある。

なお、本件損害は、売買の目的物に瑕疵があること自体の損害ではなく、そのことから他に拡大した損害であるが、その目的物が食品であつたことによつて、このサルモネラ菌汚染という瑕疵による食中毒及び、それによる死亡という結果をもたらすであろうことは、当然予測可能であつた。

(二)  不法行為責任

被告中野と増田は、

(1) 食品衛生法一一条、同法施行規則五条によると、販売の用に供する卵豆腐の包装容器には製造所・製造年月日等を表示せねばならないのに、本件卵豆腐にはそのような表示はなかつたのだから、そのような鮮度不明な生食品を販売する以上、その安全性について検査確認して販売すべきであり、

(2) 三項(二)2卵豆腐を販売した責任のとおり、卵豆腐は、一旦、流通過程におかれると細菌の増殖を防止することが困難で、食中毒の発生を防ぐことが難かしい食品であり、問屋を通じて仕入れて消費者に販売すべきでなかつたが、

本件卵豆腐がサルモネラ菌に汚染されており、本件卵豆腐を検査しておれば、色調や匂いからその異常に気付いた筈なのに、ただ漫然と問屋の被告大垣魚介青果ないし同大垣海産市場から仕入れて、それぞれ原告てると訴外本田敏子に本件卵豆腐を販売した点で過失があり、民法七〇九条により本件損害の賠償義務がある。

五、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の責任

被告大垣魚介青果と同大垣海産市場は、いずれも青果及び海産物等の小売店への卸売業者であるが、本件損害について、次のような責任がある。

(一)  保証責任

三項(一)保証責任のとおり、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場も、食品の卸売業者として食品衛生法四条三号に従うべきであり、本件卵豆腐を、それぞれ小売業者の被告中野と増田に卸すことにより、本件卵豆腐がサルモネラ菌に汚染されていないことなど食品としての品質を、消費者に対して保証したとみるべきであり、本件損害について賠償義務がある。

(二)  不法行為責任

被告大垣魚介青果と同大垣海産市場は、

(1) 三項(二)2卵豆腐を販売した責任のとおり、卵豆腐がサルモネラ菌による食中毒の原因となり易い食品として、小売商に卸すことによつて消費者に売つた場合、サルモネラ菌による食中毒を防ぐ手段が確保できないから、小売業者に卸すべきではなく、

(2) 製造業者の被告大橋が零細な個人で、その調理場が不衛生な状態であることは容易に判つた筈で、卵豆腐のようなサルモネラ菌による食中毒の危険性の大きい食品を取扱う以上、その製造過程で、清潔さが確保されているか否か、被告大橋を検査・指導・監督すべきであつたのに、

ただ漫然と被告大橋から本件卵豆腐を仕入れて、これを被告中野と増田に卸した点で過失があり、民法七〇九条により本件損害について賠償義務がある。

(三)  被告中野と増田に対する売主としての瑕疵担保などの責任

被告大垣魚介青果が被告中野に、被告大垣海産市場が増田に、それぞれ本件卵豆腐を売つたが、本件卵豆腐はいずれもサルモネラ菌に汚染されており、このような食べるに適さない瑕疵ある食品を売つたことにより、被告中野と増田とは、四項のとおり、本件損害に対して損害賠償義務を負うことを余儀なくされ、それらと同額の損害を受けたのだから、被告中野と増田に責任があるのと同じ意味において、被告中野は被告大垣魚介青果に対し、増田は被告大垣海産市場に対し、それぞれその損害賠償請求権がある。

六、損害等

(一)  訴外美紀子の死亡による損害等

1 訴外美紀子の逸失利益

訴外美紀子は、昭和二六年六月二三日生れの女子で、昭和四二年頃関節リュウマチを患つたことはあつたが、本件食中毒当時は健康で、本件食中毒に罹らなければ六三才まで、少なくとも、全国女子労働者の平均賃金以上の収入を得た筈である。この逸失利益の死亡時の価額を生活費を収入の半分を要するものとして、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して計算すると、次のとおり、六八一万六、六九三円を下らない。

(1) 一九才一年分 一四万七、三六九円

(2) 二〇才から六三才までの分 六六六万九、二九七円

2 慰藉料

訴外美紀子の慰藉料四〇〇万円、若しくは、同訴外人の慰藉料二〇〇万円とその父母である原告利三郎と同てるの慰藉料各一〇〇万円の合計四〇〇万円とみるのが相当である。

3 原告利三郎と同てるは、訴外美紀子の父母であり、同訴外人の死亡により、右12の損害賠償請求権を二分の一宛相続し、慰藉料の内各一〇〇万円を同原告ら固有のものとみるか同訴外人のものを相続したとみるかいずれにしても結局五四〇万八、三四六円宛の損害賠償請求権がある。

4 葬儀費用と治療費

訴外美紀子の治療費として、二、三八四円、葬儀費用として二五万円を要し、原告利三郎がこれを負担したので、これについても原告利三郎は損害賠償請求権がある。

(二)  原告利三郎の食中毒による損害

原告利三郎は、本件食中毒のため、昭和四五年六月一三日以来四週間自宅への往診治療を受け、その後三週間休養して通院治療を受け、その後も引続いて同年一〇月末まで通院治療を受けた。

その治療費として一万五、三八五円を要し、その間に受けた原告利三郎の苦痛に対する慰藉料は二〇万円をもつて相当とする。

(三)  訴外千代美の死亡による損害等

1 訴外千代美の逸失利益

訴外千代美は、昭和二七年九月二一日生れの健康な女子で、本件食中毒当時大垣高校三年在学中で、本件食中毒に罹らなければ六三才まで、少なくとも、全国女子労働者の平均賃金以上の収入を得られた筈である。この逸失利益の死亡時の価額を、生活費を収入の半分を要するものとして、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して計算すると、次のとおり、六八六万五、七五六円を下らない。

(1) 一八、一九才の二年分 二八万七、八二八円

(2) 二〇才から六三才までの分 六五七万七、九二八円

2 慰藉料

訴外千代美の慰藉料四〇〇万円、若しくは同訴外人の慰藉料二〇〇万円とその父母である原告景雄と同好子の慰藉料各一〇〇万円の合計四〇〇万円とみるのが相当である。

3 原告景雄と同好子は、訴外千代美の父母であり、同訴外人の死亡により、右12の損害賠償請求権を二分の一宛相続し、慰藉料の内各一〇〇万円を同原告らの固有のものとみるか同訴外人のものを相続したとみるかいずれにしても、結局五四三万二、八七八円宛の損害賠償請求権がある。

4 葬儀費用

訴外千代美の葬儀費用として二九万四、一一七円要し、これを原告景雄が負担したが、これについても原告景雄に損害賠償請求権がある。

(四)  弁護士費用

以上によると、被告大橋、同大垣魚介青果、同中野に対し、原告利三郎は五八七万六、一一五円の、同てるは五四〇万八、三四六円の、被告大橋、同大垣海産市場、増田に対し、原告景雄は五七二万六、九九五円の、同好子は五四三万二、八七八円の、各損害賠償請求権があることになるが、被告らは原告らのこの請求に応じようとしないため、原告らは本件訴訟代理人の伊神喜弘弁護士と田口哲郎弁護士に依頼して本訴を提起することになつたが、その弁護士費用として本件食中毒と相当因果関係があり、被告らが損害賠償義務を負うのは、原告利三郎について四二万五、〇〇〇円、同てるについて三六万五、〇〇〇円、同景雄について四〇万五、〇〇〇円、同好子について三六万五、〇〇〇円であり、原告らは、既に本訴提起前に、弁護士費用の一部(着手金)として、それぞれ二万五、〇〇〇円宛を右弁護士らに支払済みである。

(五)  被告中野と増田の損害

すると、本件食中毒に関して、被告中野は、原告利三郎に対し六三〇万一、一一五円の、同てるに対し五七七万三、三四六円の、増田は、原告景雄に対し六一三万一、九九五円の、同好子に対し五七九万七、八七八円の各損害賠償義務を負い、それぞれ、それと同額の損害を受けた。

従つて、被告中野は被告大垣魚介青果に対して、増田は被告大垣海産市場に対して、五項(三)の売主としての契約責任として、それぞれ右と同額の損害賠償請求権がある。

七、増田の債権・債務の相続関係

増田が昭和四六年一〇月八日死亡し、その妻の被告秋子、その子の同康洋、同繁子、同愛子(以上四名の被告を、以下、被告増田らという)以外に増田の法定相続人はいなかつたので、原告景雄、同好子に対する損害賠償義務と五項(三)の被告大垣海産市場に対する損害賠償請求権を、それぞれその相続分に応じて被告秋子が三分の一、同康洋、同繁子、同愛子が各九分の二宛相続した。

すると、被告秋子は、原告景雄に対し二〇四万三、九九八円の、原告好子に対し一九三万二、六二九円の、被告康洋、同繁子、同愛子は各自、原告景雄に対し一三六万二、六六五円の、原告好子に対し一二八万八、四一九円の各損害賠償義務があり、被告大垣海産市場に対しそれらと同額の請求権があることになる。

八、原告らの被告大垣魚介青果・同大垣海産市場に対する被告中野・同増田らの損害賠償請求権の代位行使

原告利三郎と同てるは被告中野に対し、原告景雄と同好子は被告増田らに対し、六項(五)、七項の各損害賠償請求権があり、被告中野は被告大垣魚介青果に対し、被告増田らは被告大垣海産市場に対しそれらと同額の損害賠償請求権があるが、被告中野と同増田らには、原告らに対する右各損害賠償義務を履行する資力がないので、原告利三郎と同てるは、被告中野に代位し被告大垣魚介青果に対して、原告景雄と同好子は、被告増田らに代位し被告大垣海産市場に対して、被告中野又は同増田らの右損害賠償請求権の履行として、原告らが被告中野又は同増田らに対して有する損害賠償請求権の額と同額の金員の支払を求める権利もある。

九、結論

そこで、被告大橋、同大垣魚介青果及び同中野各自に対し、原告利三郎は六三〇万一、一一五円と、同てるは五七七万三、三四六円と、いずれもこれらから弁護士費用を控除した内金に対する本件食中毒後の昭和四五年六月一五日から、弁護士費用の内着手金に対する被告らに訴状が送達された翌日(被告大橋について同年一二月二八日、同大垣魚介青果については同月二九日、同中野については昭和四六年一月四日)から、その余の弁護士費用については、本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、被告大橋、同大垣海産市場及び同増田ら(被告秋子、同康洋、同繁子、同愛子の各相続分に応じて)各自に対して、原告景雄は六一三万一、九九五円と、同好子は五七九万七、八七八円と、いずれもこれらから弁護士費用を控除した内金に対する本件食中毒後の昭和四五年六月一六日から、弁護士費用の内着手金に対する同被告らに訴状が送達された翌日の同年一二月二八日から、その余の弁護士費用に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払うことを、第一項一のとおり、本訴において求める。

第三、請求原因に対する被告大橋の認否

請求原因一項の事実は知らない。

同二項(一)、(二)の事実は知らない、同(三)の事実は認める。

同三項中、被告大橋が、本件卵豆腐の原料として破損卵から集めた液卵を使用していたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件卵豆腐の原料の液卵を買入れたのは、昭和四五年六月一一日と一二日であり、サルモネラ菌は買入れた時から既に液卵に付着していた。卵豆腐の製造に使用した器具は、すべて洗浄し、蒸気により消毒していたから、サルモネラ菌が付着していた筈がない。また、被告大橋は、製造に着手する前、消毒手洗器で手を消毒しており、サルモネラ菌が、被告大橋の手指を媒体として本件卵豆腐に付着したとも考えられない。

同六項の事実は否認する。

第四、請求原因に対する被告中野と同増田らの認否

請求原因一項中、原告利三郎、訴外美紀子、同千代美が食中毒に罹つたこと、及び訴外美紀子と同千代美が死亡した事実は認めるが、その余の事実は知らない。

同二項(一)(二)の事実中、被告中野が原告てるに、増田が訴外本田敏子にそれぞれ本件卵豆腐を販売したことは認めるが、その余の事実は知らない。

同四項(一)の各売買の事実は認めるが、原告らの賠償を求める損害はいずれも買主の原告てると訴外本田敏子について生じた損害ではないから、被告中野と被告増田らには、同項(一)の責任はない。

同項(二)の食品衛生法一一条、同法施行規則五条違反の事実は認めるが、本件食中毒と因果関係がない。本件卵豆腐には被告大橋が製造した時から、サルモネラ菌が付着しており、被告中野と増田が仕入れて販売した過程で混入したものではなく、しかも、卵豆腐がサルモネラ菌に汚染されていることは外観から肉眼で識別不能であり、同被告らは原告てるら消費者に販売するまで、各自店舗内の冷蔵陳列ケースに入れて保管しており、卵豆腐の取扱いにも過失がないから、被告中野と増田には不法行為上の責任もない。

同六項の事実を否認する。

同七項の増田についての被告増田らの相続関係の事実は認める。

第五、請求原因に対する被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の認否

請求原因一項中、原告利三郎、訴外美紀子、同千代美が食中毒に罹つたこと、及び訴外美紀子と同千代美が死亡した事実は認めるが、その余の事実は知らない。

同二項の事実中、卵豆腐の販売経過は認めるが、その余の事実は知らない。なお、被告大橋と被告大垣魚介青果ないし同大垣海産市場との関係は、販売数量に応じて手数料を取得する委託販売であり、その実態は、被告大橋と被告中野・増田間の売買の仲介に過ぎない。

同五項について、まず、同(一)の保証責任は、被告大垣魚介青果にも、同大垣海産市場にもない。同被告らは、何らの保証をしたこともなく、保証を擬制されるような事実もない。

また、サルモネラ菌による食中毒は、殆んどの食品、例えば、大福餅によつても発生しており、特に卵豆腐だけが食中毒の原因となり易い食品ではなく、同被告らは、従来卵豆腐を取扱つても、何らの事故も発生しなかつたのだから、同被告らに、同(二)(1)のような卵豆腐を商品として販売してはならない注意義務はなく、また同(二)(2)のような被告大橋に対する検査・指導・監督義務もない。本件卵豆腐は、被告大橋が製造した時点から、サルモネラ菌に汚染されており、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場には、午前六時半頃被告大橋から運び込まれ、遅くとも、午前八時半頃までに、被告中野らの小売業者の手に渡つていたのだから、この間に、被告大垣魚介青果や同大垣海産市場が特別の保存方法をとらなかつたからといつて、そのことがサルモネラ菌増殖の原因となつたとは考えられず、同被告らに本件食中毒発生について何らの過失もない。

同項(三)の売主としての瑕疵担保などの責任も否認する。被告大垣魚介青果と同大垣海産市場は、実質的には売買の仲介者にすぎないから、売主としての責任はない筈である。仮にあるとしても、その責任は、信頼利益の賠償に限られ、その範囲は、卵豆腐の代金相当額を限度とするに過ぎない。

同六項の事実は否認する。

同七項の増田についての被告増田らの相続関係の事実は認める。

同八項の事実は否認する。

第六、被告大橋の抗弁

仮に、本件損害について被告大橋に賠償義務があるとしても、本件卵豆腐のサルモネラ菌は、被告大橋が訴外株式会社米増商店、同高橋正一、又は同江井利夫から買入れた段階から、原料の液卵に付着しており、このようなサルモネラ菌に汚染した液卵を販売した者も、共同不法行為者として本件損害の賠償義務があり、その責任の割合は被告大橋三に対し、同訴外人ら七とみるべきであるのに、原告らは、当初、同訴外人らに対しても、被告大橋と共同被告として損害賠償請求訴訟を起していたのに、同訴外人らに対する訴を取下げることにより、同訴外人らの責任を追及することを、放棄してしまつた。これは、原告らが同訴外人らの損害賠償義務を免除したことを意味し、被告大橋の損害賠償義務も、同訴外人らの責任割合の七割の限度で、これを免除したとみるべきである。

また、当初、共同不法行為者であるとの理由で、共同被告として訴を提起しておきながら、その一部の被告について訴を取下げることは、取下げなかつたら得られた、被告ら各自の責任についての裁判所の判断を得る機会を、原告が一方的に奪うことになり、取下られた被告に対する求償権の行使が不便になるとの不利益を、後に残された他の被告らに与えることになるから、信義則上も、取下げられた被告が本来負担すべき部分についてまで、他の被告に請求することは許されない筈である。

従つていずれにしても被告大橋には仮に本件損害について賠償義務があるとしても、その範囲は全損害の三割の限度に、おいてである。

第七、被告増田らの抗弁

仮に、被告増田らに何らかの損害賠償義務があるとしても、既に原告景雄と同好子に訴外千代美の死に関して一〇万円支払つている。

第八、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の抗弁

一、仮に、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に、被告中野と増田に対する瑕疵担保責任があるとしても、右被告らはいずれも商人であり、被告中野と増田は、昭和四五年六月中に本件卵豆腐の瑕疵を知つたのであるから、商法五二六条一項により、直ちに、これを被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に通知すべきであつたのに通知していないし、瑕疵担保責任の追求を何らしていない。

原告らは、昭和四八年三月二六日の本件第一〇回口頭弁論期日において、初めて、請求原因八項の被告中野と増田の瑕疵担保に基づく損害賠償請求権の代位行使の主張をしたに過ぎないから、既に、代位行使の対象となる被告中野と増田の損害賠償請求権は、民法五七〇条、五六六条三項により、除斥期間の経過により消滅している。

二、また、仮に、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に、何らかの損害賠償義務があるとしても、既に、被告大垣魚介青果は、原告利三郎と同てるに、訴外美紀子の死に関して、一〇万円、被告大垣海産市場は、原告景雄と同好子に訴外千代美の死に関して、一〇万円をそれぞれ支払つている。

第九、抗弁に対する原告らの認否

一、被告大橋の抗弁に対する認否

原告が訴外株式会社米増商店らに対する訴を取下したことは認める。しかし、それは、同訴外人らの責任の免除を意味せず、被告大橋の責任を免除するものではない。また右訴の取下によつて、被告大橋に対する本訴請求が、信義則上制限されるものでもない。

二、被告増田らの抗弁に対する認否

一〇万円の支払の事実は認める。

三、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の抗弁に対する認否及び主張

抗弁一について、原告らが請求原因八項の代位行使の主張を明らかにしたのは、同被告らの主張のとおり、昭和四八年三月二六日の本件第一〇回口頭弁論期日においてであるが、その主張の構成要件となる事実及び損害賠償の請求は、昭和四五年一二年二一日裁判所受付の訴状によつてなされているから、除斥期間内に損害賠償請求権の代位行使はなされている。

同二の各一〇万円の支払の事実は認める。

第一〇、証拠〈略〉

理由

第一食中毒の発生とその原因及び卵豆腐の流通過程

〈証拠〉によると、請求原因一、二項の事実(但し、一項の事実中、原告利三郎、訴外美紀子、同千代美が食中毒に罹つたことと、訴外美紀子、同千代美が死亡したことは被告大橋以外の被告らとの間で、二項の事実中、(三)は被告大橋との間で、被告中野が原告てるに、増田が訴外本田敏子にそれぞれ卵豆腐を販売したことは被告中野と同増田らとの間で、卵豆腐の販売過程については被告大垣魚介青果と同大垣海産市場との間で、いずれも争いがない。)が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

第二被告大橋(製造業者)の責任

〈証拠〉によると、

1被告大橋は、肩書地住所地で魚介類販売業を営む傍ら、卵焼や卵豆腐を製造して、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場へ卸していた者であるが、昭和四五年六月一二日も、午後一時頃から午後八時までの間に、縦一〇糎、横四糎・高さ4.3糎のポリパック入りの卵豆腐三五五個を作り、その後に作つた卵焼と共に、翌一三日午前七時頃、卵豆腐を被告大垣魚介青果に二七〇個、被告大垣海産市場に七五個卸し、それらを被告大垣魚介青果は被告中野ら一六の小売業者に、被告大垣海産市場は増田ら一一の小売業者に販売し、小売業者らはそのうち二六一個を販売したところ、卸売業者・小売業者の各別に関係なく、大垣市を中心に岐阜県及びその近隣府県で、その卵豆腐を食べた者のうち原告利三郎ら四一五名がサルモネラ菌C1群による食中毒に罹り、そのうち訴外美紀子ら二名が死亡したが、卵焼を食べた者からは食中毒患者は出なかつたこと、

2サルモネラ菌は、ねずみ・ねこ・犬その他の家畜類・鳥類・爬虫類などにも広く分布しており、人間も保菌者となることがあり、はえ・ごきぶりなどもこの菌を保有することがあるといわれており、サルモネラ菌による食品汚染経過としては、正常な食品が摂取されるまでの取扱過程で、保菌ねずみ・人間・はえ・ごきぶりなどにより汚染される場合と、動物性食品の原料動物自体が、既に、サルモネラ菌に汚染されている場合で、そのような動物性食品としては、牛・豚・馬・家きん類などの肉・乳汁・卵などがあること、

3被告大橋は、右卵豆腐と卵焼の原料として、鶏卵卸売業者である訴外高橋正一・同有限会社米増鶏卵・同江井利夫らから店頭で販売するに適さない破損卵の中味を集めた液卵を購入して使用しており、一二日に使用したのは、前一一日と一二日朝購入したものであり、それらの液卵は、鶏卵卸売業者の手で予め一斗缶やポリバケツに集められたものと、破損卵のままにしてあるのを被告大橋自身が店頭で割り入れたものとがあり、前者の一部には冷蔵庫に保管されていたものもあつたが、作業場や流し台などに蓋もしないで放置されたままのものがあり、後者も破損卵の殻は汚れたままであつたこと、

4本件食中毒発生後、被告大橋の所に残されていた液卵の一部と、売残つた卵豆腐の多くから、サルモネラ菌C1群が検出された。また、被告大橋の家族は夫婦と二男一女からなり、一四日、一六日、一八日、一九日、被告大橋の家族の検便をしたところ一四日の分については長男、一八日の分については次男、一九日の分については被告大橋・妻・長男・次男の長女を除く四人から、それぞれ、サルモネラ菌C1群が検出されたこと、との事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実、特に本件食中毒が市場・小売店の各別に関係なく発生し、原料液卵の残りからもサルモネラ菌C1群が検出され、被告大橋が同一原料で製造し、同一方法で販売された卵焼に関しては食中毒が発生しなかつたことによると、卵豆腐の製造業者である被告大橋としては、右のように余り衛生的に取扱われていない液卵がサルモネラ菌等の細菌に汚染されていることを予想して、卵豆腐の原料として使用しないか、使用する場合でも卵豆腐の製造過程で十分な殺菌措置をとるべきであつたのに、購入前から若しくは購入後保管中サルモネラ菌C1群に汚染された液卵を原料として卵豆腐を製造するに際し、サルモネラ菌C1群を殺菌するに足りる措置を怠たり、サルモネラ菌C1群に汚染された本件卵豆腐を製造し食品として流通過程に置いた点で、本件食中毒により原告利三郎、訴外亡美紀子、同千代美の受けた損害について不法行為(民法七〇九条)による損害賠償義務があると解するのが相当である。

もつとも、〈証拠〉によると、サルモネラ菌は摂氏六〇度、二〇分で死滅するとか、全卵中のサルモネラ菌は同六〇ないし六二度、3.5分ないし4分で一〇〇〇万個が死滅したといわれ、〈証拠〉によると、被告大橋は液卵と出し汁等を攪拌した仕込み液を、摂氏約八〇度に達するまで約二〇分間蒸して卵豆腐を製造していた旨説明しているが、〈証拠〉によると、被告大橋は卵豆腐を製造する際、温度計等を用いることなく、勘によつており、本件卵豆腐の製造過程で、何度まで加熱したかはつきりしない。従つて、仕込み液が卵豆腐として凝固する温度で、サルモネラ菌が生存し得ないとの証拠のない以上、右のように、液卵を原料として使用したこと自体、若しくは、原料として使用するについて液卵の十分な殺菌措置を怠つた点で被告で大橋に過失があると解する外ない。

第三被告中野と増田(小売業者)の責任

一第一、二項で検討したところによると、原告てるが鮮魚類等の小売業者の被告中野から本件卵豆腐を買つたところ、それがサルモネラ菌に汚染されており、それを食べた夫の原告利三郎と娘の訴外美紀子が食中毒に罹り、訴外本田敏子が八百屋の増田から本件卵豆腐を買つたところ、同じくそれが、サルモネラ菌に汚染されており、それを食べた同訴外人宅に下宿していた姪の訴外千代美が食中毒に罹り、訴外美紀子と同千代美が死亡した。

ところで、売買契約の売主は、買主に対し、単に、売買の目的物を交付するという基本的な給付義務を負つているだけでなく、信義則上、これに付随して、買主の生命・身体・財産上の法益を害しないよう配慮すべき注意義務を負つており、瑕疵ある目的物を買主に交付し、その瑕疵によつて買主のそのような法益を害して損害を与えた場合、瑕疵ある目的物を交付し損害を与えたことについて、売主に右のような注意義務違反がなかつたことが主張立証されない限り、積極的債権侵害ないし不完全履行(以下単に積極的債権侵害という)となり、民法四一五条により買主に対して損害賠償義務がある。そして、そのような売主の契約責任は、単に買主だけでなく、信義則上その目的物の使用・消費が合理的に予想される買主の家族や同居者に対してもあると解するのが相当である(原告主張のように売買の交渉に当つた者がその家族や同居者のためにそれらの者の使者又は締約補助者として売買契約を結んだもので、それらの者全員が買主であるとか、買主がそれらの者に対する注意義務を伴う契約(第三者のためにする契約)を結んだからだとの考えることもできよう。)。

すると、被告中野は、買主である原告てるの家族の原告利三郎と訴外美紀子に対し、増田は、買主である訴外本田敏子の姪で同居者の訴外千代美に対して、食べるに適さないサルモネラ菌に汚染された本件卵豆腐を売り、原告利三郎らが、それを食べて食中毒に罹つたことについて、右のような契約責任が問題となつてくる。

二そして、本件食中毒について被告中野と増田に不法行為責任があるとの原告らの請求原因に対する被告中野と同増田らの認否における無過失の主張は、サルモネラ菌の付着した卵豆腐を売つて、本件食中毒を招来させ原告利三郎らに損害を与えたことについて、売主としての右注意義務違反がなかつたとの抗弁とみるべきである。

ところで、食品の安全性は、直ちに人間の生命・健康に影響を及ぼすもので極めて重大であるのに、消費者は、その安全性を確かめる適当な手段を持たず、食品販売業者である売主を信頼し、食品を安全であると信じて買う外ないのに対し、食品販売業者は、消費者より多くの安全性確認・確保の措置を直接若しくは卸売業者を通じて製造業者等に対してとり得る立場にあり、食品販売を業としてそれによつて収益を挙げているのだから、食品販売業者は売主として、買主の生命・身体・財産上の法益を害しないよう食品の安全性確認確保の極めて高度の注意義務を負つていると解するのが相当である。

〈証拠〉によると、本件卵豆腐は、ポリパックに入リセロハンテープで蓋が止めてあつたが、食品衛生法(昭和四七年法一〇八号食品衛生法の一部を改正する法律による改正前)一一条、同法施行規則五条に違反して製造所・製造年月日等の標示は何ら無かつたこと(同法条に違反して無標示であつたことは被告中野・同増田らとの間で争いがない。)、被告中野は、昭和四四年も五・六月頃から八月末まで、卵豆腐を販売したことがあり、増田も、本件食中毒発生の一週間位前に、一同販売したことがあつたが、卸売業者の被告大垣魚介青果又は同大垣海産市場から仕入れる際、いずれも、卵が原料になつてるだろうと、漠然と思つているだけで、どこの製造所で、どのようにして作られるかについて全く考慮していなかつたこと、及びサルモネラ菌のような食中毒細菌は、食品の腐敗現象とは殆んど無関係で、その汚染・増殖の有無は人間の五官では全く検知できないものであり、本件卵豆腐を食べた原告利三郎や訴外本田敏子も、それを売つた被告中野や増田も、本件卵豆腐に、何ら異常も感じなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、本件卵豆腐には、消費者が食品の安全性を確認し食品選択の資料とするため前記食品衛生法一一条等によつて食品販売業者に義務付けられている標示がなされていなかつたのだから、このような無標示の卵豆腐を販売した食品販売業者の被告中野と増田としては、標示すべき内容については、標示がなされた食品の場合より、重い注意義務を負うべきであることを考慮すると、更に右注意義務は重くなり、本件卵豆腐がサルモネラ菌に汚染されていることが、人間の五官によつては全く検知できないことであり、以前卵豆腐を取り扱つた際には安全であつたというだけでは、未だ被告中野と増田に本件卵豆腐の安全性確認について注意義務違反がなかつたとは認められず、他に被告中野と増田の無過失・注意義務違反のなかつたことを認めるに足りる証拠もない。

すると、被告中野は原告利三郎と訴外美紀子に対し、増田は訴外千代美に対して、本件食中毒によつて生じた損害について、それぞれ積極的債権侵害として、損害賠償義務がある。

第四被告大垣魚介青果と同大垣海産市場(卸売業者)の責任

一第一ないし第三項で検討したところによると、被告中野が、食品卸売業者の被告大垣魚介青果から、本件卵豆腐を仕入れたところ、それがサルモネラ菌に汚染されていたため、それを買つた原告てるの家族の原告利三郎と訴外美紀子が食べて食中毒に罹つたことによる損害について、賠償義務を負い、増田が、同じく、食品卸売業者の被告大垣海産市場から、本件卵豆腐を仕入れたところ、それがサルモネラ菌に汚染されていたため、それを買つた訴外本田敏子の同居者の訴外千代美が食べて食中毒に罹つたことによる損害について、賠償義務を負い、被告中野と増田は、原告利三郎らに対して負う損害賠償義務の額と同額の損害を受けた。

そして、第三項で述べた売主の買主に対する付随的な注意義務は、被告大垣魚介青果と被告中野、被告大垣海産市場と増田との関係についても、そのまま当てはまり、被告大垣魚介青果は被告中野に対し、被告大垣海産市場は増田に対し、買主の生命・身体・財産上の法益を害しないように配慮すべき注意義務を怠らなかつたことが主張立証されない限り、右損害について、積極的債権侵害として、民法四一五条により、損害賠償義務を負うと解するのが相当である。

なお、本件卵豆腐の製造業者の被告大橋と被告大垣魚介青果・同大垣海産市場との売買の形態がどのようなものであれ、卸売業者の被告大垣魚介青果・同大垣海産市場と小売業者の被告中野・増田との売買が通常の売買と変りないことは、〈証拠〉により明らかである。

二、そして、本件食中毒について被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に不法行為責任があるとの原告らの請求原因に対する同被告らの認否における無過失の主張も、サルモネラ菌の付着した卵豆腐を売つて、本件食中毒を招来させ被告中野と増田に損害を与えたことについて、売主としての注意義務違反がなかつたとの抗弁とみるべきである。

しかし、〈証拠〉によると、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場は、いずれも、水産加工品・鮮魚・野菜等を扱う食品卸売業者で、被告大橋の製造する卵豆腐を昭和四四年六月頃から八月末頃まで扱つた後、昭和四五年も六月初め頃から取扱つていたが、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の担当者は、被告大橋の卵豆腐を取扱うについて顧客と卵豆腐を試食してみただけで、被告大橋が、どのような原料を使つて、どのように作つているかについて、全く考慮していなかつたこと、及び本件食中毒発生まで、被告大橋の製造した卵豆腐を取扱つても何らの事故の発生もなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実と第三項二認定の事実を総合すると、卸売業者の被告大垣魚介青果と同大垣海産市場は、小売業者終告中野と増田より、製造業者の被告大橋に近い関係にあり、本件卵豆腐の安全性を確認し易い立場にあつたのだから、被告中野らより注意義務の程度は、重くなることはあつても軽くなることはないことを考慮すると、未だ、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に、本件卵豆腐の安全性確認について注意義務違反がなかつたとは認められず、他に同被告らの無過失・注意義務違反のなかつたことを認めるに足りる証拠もない。

三、そして、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の右のような積極的債権侵害の責任は、買主に交付された売買の目的物の瑕疵によつて他に拡大して生じた損害についての、目的物を買主に交付するという基本的な給付義務に付随して売主が負う買主に損害を与えないように配慮すべき注意義務違反に基づくもので、目的物の瑕疵自体の損害についての、目的物を買主に交付するとの基本的給付義務に関する瑕疵担保責任とは異なり、その範囲は信頼利益ないし、代金の限度に止まるものではなく、相当因果関係のある全損害について生ずる。

すると、本件食中毒について、積極的債権侵害として、被告中野・増田の独自の有責事由により損害賠償額が増大したといつた特段の事情のない限り、被告大垣魚介青果は被告中野に対して、被告中野が原告利三郎と訴外美紀子に対して損害賠償義務を負うのと同額の、被告大垣海産市場は増田に対して、増田が訴外千代美に対し損害賠償義務を負うのと同額の、それぞれ損害賠償義務がある。

第五、本件食中毒による訴外美紀子らの損害等

一、訴外美紀子の死亡による損害等

1訴外美紀子の逸失利益

〈証拠〉によると、訴外美紀子は、昭和二六年六月二三日生れの女子で、昭和四二年四月高校へ入学したが、間もなく手の関節リュウマチを患い、高校を中退し、療養の結果昭和四五年頃には治癒していたことが認められる。また、労働省労働統計調査部の賃金センサスによる昭和四五年の中学卒業の全女子労働者の平均月間給与が三万二、四〇〇円、平均年間賞与等が七万三、六〇〇円であることは、当裁判所に顕著である。

すると、訴外美紀子が、本件食中毒に罹つて死亡しなければ、六三才まで四四年間働き、少なくとも、右中学卒業の全女子労働者の平均賃金に相当する収入を得ることができた筈であり、この逸失利益の死亡時の価額を、生活費を収入の半分要するものとして、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して計算すると、次のとおり五二九万九、七九七円(円未満切捨、以下同じ)となる。

2訴外美紀子の慰藉料

〈証拠〉、その他諸般の事情を考慮すると、本件食中毒による死亡についての訴外美紀子の慰藉料は、四〇〇万円をもつて相当と認める。

3訴外美紀子の損害賠償請求権の相続

すると、訴外美紀子は被告大橋に対して不法行為責任として、被告中野に対して積極的債権侵害責任として、それぞれ合計九二九万九、七九七円の損害賠償請求権があることになる。

そして、〈証拠〉によると、原告利三郎は訴外美紀子の父、原告てるはその母であることは明らかであるから、訴外美紀子の死亡により、右損害賠償請求権を各二分の一の四六四万九、八九八円宛相続したことになる。

4原告利三郎の負担した治療費と葬儀費用

〈証拠〉によると、訴外美紀子の本件食中毒の治療費として二、三八四円を要し、同訴外人のこの治療費と葬儀費用をその父の原告利三郎が出費したことが認められる。また〈証拠〉、その他諸般の事情を考慮すると、原告利三郎の負担した右葬儀費用の内、本件食中毒と相当因果関係のある葬儀費用は、二五万円をもつて相当と認める。

ところで、不法行為者は、不法行為と相当因果関係にあるすべての損害について賠償義務があり、それが不法行為の直接の被害者以外の者に生じたものであつても、その者に対して直接損害を賠償すべきであり、被害者の扶養義務者が負担した治療費やその遺族が負担した葬儀費用についても、相当因果関係がある範囲で、その扶養義務者や遺族に対して直接損害賠償義務があるとされているが、積極的債権侵害の場合にも、その性質上、右と同様に解するのが相当である。

従つて、これらの合計二五万二、三八四円の治療費・葬儀費用についても、被告大橋と同中野は、原告利三郎に対して損害賠償義務がある。

二、原告利三郎自身の食中毒による損害

1治療費

〈証拠〉によると、本件食中毒の治療費として、一万一、四三五円要したことが認められる。〈証拠判断略〉

2慰藉料

〈証拠〉、その他諸般の事情を考慮すると、本件食中毒についての原告利三郎の慰藉料は、二〇万円をもつて相当と認める。

すると、原告利三郎は、自己の食中毒による損害について、被告大橋に対して不法行為責任として、被告中野に対して積極的債権侵害責任として、それぞれ合計二一万一、四三五円の損害賠償請求権がある。

三、訴外千代美の損害等

1訴外千代美の逸失利益

〈証拠〉によると、訴外千代美は、昭和二七年九月二一日生れの女子で、本件食中毒当時健康で高校三年在学中であつたことが認められる。また、前記賃金センサスによる昭和四五年の高校卒業の全女子労働者の平均月間給与が三万六、九〇〇円、平均年間賞与等が一〇万〇、一〇〇円であることは、当裁判所に顕著である。

すると、訴外千代美が、本件食中毒に罹つて死亡しなければ、約一年間の高校課程修了後、六三才まで四四年間働き、少なくとも、右高校卒業の全女子労働者の平均賃金に相当する収入を得ることができた筈であり、この逸失利益の死亡時の価額を、生活費を収入の半分要するものとして、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して計算すると、次のとおり六〇四万七、六三四円となる。

2訴外千代美の慰藉料

〈証拠〉、その他諸般の事情を考慮すると、本件食中毒による死亡についての訴外千代美の慰藉料は、四〇〇万円をもつて相当と認める。

3訴外千代美の損害賠償請求権の相続

すると、訴外千代美は被告大橋に対して不法行為責任として、増田に対して積極的債権侵害責任として、それぞれ合計一、〇〇四万七、六三四円の損害賠償請求権があることになる。

そして、〈証拠〉によると、原告景雄は訴外千代美の父、原告好子はその母であることは明らかであるから、訴外千代美の死亡により、右損害賠償請求権を各二分の一の五〇二万三、八一七円宛相続したことになる。

4原告景雄の負担した葬儀費用

〈証拠〉によると、訴外千美代の葬儀費用を、原告景雄が出費したことが認められる。また、前記各証拠と諸般の事情を総合すると、その内、本件食中毒と相当因果関係のある葬儀費用は、二五万円をもつて相当と認める。

この葬儀費用についても、本項一、4と同じ理由で、被告大橋と増田は、原告景雄に対し損害賠償義務がある。

四、被告大橋の抗弁について

被告大橋の抗弁は、独自の見解として当裁判所が採用しないもので、主張自体理由がない。しかも、右抗弁は、訴外株式会社米増商店らから買入れた段階から、原料の液卵にサルモネラ菌が付着していたことを前提としており、〈証拠〉によると、被告大橋の所に残されていた液卵の内、同訴外会社と訴外上多度農業協同組合から買入れたものの混合物から、サルモネラ菌が検出されたことが認められるが、〈証拠〉によると、同訴外会社から買入れた段階から液卵が汚染されていたと認めることができず、他に右前提事実を認めるに足りる証拠もない。

五、弁護士費用

以上によると、被告大橋と同中野に対して、原告利三郎は合計五一一万三、七一七円の、同てるは四六四万九、八九八円の、被告大橋と増田に対し、原告景雄は合計五二七万三、八一七円の、同好子は五〇一万三、八一七円の、各請求権が発生したことになる。

そして、訴外美紀子の死亡に関して原告利三郎と同てるが被告大垣魚介青果から一〇万円を、訴外千代美の死亡に関して原告景雄と同好子は増田と被告大垣海市産場から各一〇万円宛を、それぞれ受取つたことは当事者間に争いがない。そしてこれらは、原告利三郎と同てるの右請求権について各五万円宛、原告景雄と同好子の右請求権に右一〇万円宛充当するのが相当である。

すると、結局、被告大橋と同中野に対して、原告利三郎は五〇六万三、七一七円の、同てるは四五九万九、八九八円の、被告大橋と増田に対して、原告景雄は五一七万三、八一七円の、同好子は四九二万三、八一七円の、各請求権があることになるが、同被告らは原告らのその請求に応じようとしないため、原告らは本件訴訟代理人らに訴訟委任し、本訴提起前に着手金として各自二万五、〇〇〇円宛支払つたことは〈証拠〉によつて明らかであり、本件食中毒の損害として右被告らに負担を求められる弁護士費用は、原告利三郎について三五万円、同てるについて三二万円、同景雄について三六万円、同好子について三四万円をもつて相当と考える。

六、被告中野と増田の損害

以上によると、本件食中毒に関して、被告中野は、原告利三郎に対して、五四一万三、七一七円と内金五〇六万三、七一七円(弁護士費用以外のもの)に対する本件食中毒後の昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円(弁護士費用の内着手金)に対する同被告への訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年一月四日から、内金三二万五、〇〇〇円(支払済みの着手金以外の弁護士費用、以下同じ)に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同てるに対して、四九一万九、八九八円と内金四五九万九、八九八円に対する前記昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する前記昭和四六年一月四日から、内金二九万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務を負い(損害賠償義務が遅滞に陥いる時期は、被告中野・増田の積極的債権侵害責任についてもその性質上、被告大橋に対する不法行為責任と同一に扱うのが相当である。)、増田は、原告景雄に対して、五五三万三、八一七円と内金五一七万三、八一七円に対する本件食中毒後の昭和四五年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する同人への訴状送達の翌日であることの記録上明らかな同年一二月二八日から、内金三三万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同好子に対して、五二六万三、八一七円と、内金四九二万三、八一七円に対する前記同年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する前記同年一二月二八日から、内金三一万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務を負い、被告中野と増田はそれと同額の損害を受けた。

そして、右損害の内弁護士費用や遅延損害金も、被告大垣魚介青果・同大垣海産市場との間においても、本件食中毒と相当因果関係ある損害とみるのが相当であり、その他被告中野と増田の独自の有責事由により特に損害が拡大したといつた特段の事情を認めるに足りる証拠は何もないから、積極的債権侵害として、被告中野は被告大垣魚介青果に対し、増田は、被告大垣海産市場に対し、それぞれ右と同額の損害賠償請求権が発生したことになる。

第六、増田の債権・債務の相続

増田が昭和四六年一〇月八日死亡し、その妻の被告秋子、その子の同康洋、同繁子、同愛子(被告増田ら)以外に増田の法定相続人がいなかつたことは、被告増田ら及び同大垣海産市場との間で争いがない。

すると、前項の増田の原告景雄と同好子に対する損害賠償義務と被告大垣海産市場に対する損害賠償請求権を、それぞれその法定相続分に応じて被告秋子は三分の一、同康洋、同繁子、同愛子はいずれも九分の二宛相続したことになる。

従つて、被告秋子は、原告景雄に対して、一八四万四、六〇五円と内金一七二万四、六〇六円に対する前記昭和四五年六月一六日から、内金八、三三三円に対する前記同年一二月二八日から、内金一一万一、六六六円対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の、原告好子に対して一七五万四、六〇五円と内金一六四万一、二七二円に対する前記同年六月一六日から、内金八、三三三円に対する前記同年一二月二八日から、内金一〇万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があり、被告大垣海産市場に対しそれと同額の損害賠償請求権がある。

また、被告康洋、同繁子、同愛子は各自、いずれも、原告景雄に対し一二二万九、七三七円と内金一一四万九、七三八円に対する前記同年六月一六日から、内金五、五五五円に対する前記同年一二月二八日から、内金七万四、四四四円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の、原告好子に対して、一一六万九、七三七円と内金一〇九万四、一八二円に対する前記同年六年一六日から、内金五、五五五円に対する前記同年一二月二八日から、内金七万円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があり、被告大垣海産市場に対してそれと同額の損害賠償請求権がある。

第七、原告らの被告大垣魚介青果・同大垣海産市場に対する被告中野・同増田らの損害賠償請求権の代位行使

原告利三郎と同てるは被告中野に対し、原告景雄と同好子は被告増田らに対し、第五項六、第六項の各損害賠償請求権があり、被告中野は被告大垣魚介青果に対し、被告増田らは被告大垣海産市場に対し、それらと同額の損害賠償請求権があるところ、〈証拠〉によると、被告中野と同増田らには、原告らに対する右各損害賠償義務を履行するに足りる資力がないことが認められる。

そして、第四項三で述べたように、被告中野・同増田らの被告大垣魚介青果と同大垣海産市場に対する右損害賠償請求権は、積極的債権侵害によるものであつて、瑕疵担保責任に基づくものではないから、これに商法五二五条一項や民法五七〇条、五六六条三項が適用されることはない。仮に、それらの条文が準用されるとしても、〈証拠〉によると、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の担当者は、本件卵豆腐を販売した翌日の六月一四日には既に、本件食中毒の発生を知つていたことが認められるし、原告らが被告中野と同増田らの被告大垣魚介青果に対する売主としての契約上の権利を代位行使する旨の主張は、昭和四八年三月二六日の本件第一〇回口頭弁論期日で、初めて明確にされたが、その主張の構成要件となる事実及び損害賠償の請求は昭和四五年一二月二一日当裁判所受付の訴状によつてなされていることは記録上明らかであるから、いずれにしても、通知義務の懈怠と除斥期間経過についての、被告大垣魚介青果と同大垣海産市場の抗弁は理由がない。

すると、原告利三郎と同てるの、被告大垣魚介青果に対する被告中野の損害賠償請求権の代位行使として、被告大垣魚介青果に対して、原告利三郎は、五四一万三、七一七円と内金五〇六万三、七一七円に対する昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する昭和四六年一月四日から、内金三二万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各払支済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同てるは、四九一万九、八九八円と内金四五九万九、八九八円に対する昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する昭和四六年一月四日から、内金二九万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、原告景雄と同好子の、被告大垣海産市場に対する被告増田らの損害賠償請求権の代位行使として、被告大垣海産市場に対して、原告景雄は、五五三万三、八一六円と内金五一七万三、八二〇円に対する昭和四五年六月一六日から、内金二万四、九九八円に対する同年一二月二八日から、内金三三万四、九九八円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同好子は、五二六万三、八一六円と内金四九二万三、八一八円に対する同年六月一六日から、内金二万四、九九八円に対する同年一二月二八日から、内金三一万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、各支払うように請求する権利がある。

第八、結論

以上検討したところによると、被告大橋は、原告利三郎に対して、五四一万三、七一七円と内金五〇六万三、七一七円(弁護士費用以外のもの)に対する本件食中毒後の昭和四五年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円(弁士護費用の内着手金)に対する同被告への訴状送達の翌日であることが記録上明らかな同年一二月二八日から、内金三二万五、〇〇〇円(支払済みの着手金以外の弁護士費用、以下同じ)に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同てるに対して、四九一万九、八九八円と内金四五九万九、八九八円に対する前記同年六月一五日から、内金二万五、〇〇〇円に対する前記同年一二月二八日から、内金二九万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同景雄に対して、五五三万三、八一七円と内金五一七万三、八一七円に対する本件食中毒後の同年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する前記同年一二月二八日から、内金三三万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、同好子に対して、金五二六万三、八一七円と内金四九二万三、八一七円に対する前記同年六月一六日から、内金二万五、〇〇〇円に対する前記同年一二月二八日から、内金三一万五、〇〇〇円に対する本判決確定の日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、被告中野は原告利三郎と同てるに対して第五項六に、被告増田らは原告景雄と同好子に対して第六項に、被告大垣魚介青果は原告利三郎と同てるに対して第七項に、被告大垣海産市場は原告景雄と同好子に対して同項に、各記載のとおりの支払義務がある。

そして、原告利三郎と同てるに対する右被告大橋、同中野と同大垣魚介青果の債務、原告景雄と同好子に対する同被告大橋、同増田らと同大垣魚介青果の債務は、それぞれ相互に(但し被告増田らの債務相互間を除く、被告増田ら相互間では別個独立した債務である。)不真正連帯の関係にあると解するのが相当である。

すると、原告らの本訴請求はいずれも右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(河田貢)

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